原題:American Sniper
2014年製作/アメリカ映画/上映時間:132分/R15+/2015年2月21日日本公開
監督:クリント・イーストウッド
出演:ブラッドリー・クーパー
ルーク・グライムス ほか
アメリカ軍で最も強い狙撃手と呼ばれた、クリス・カイルの自叙伝を実写化したドラマです。
監督は『グラン・トリノ』などのクリント・イーストウッド。
イーストウッド監督とは初タッグのブラッドリー・クーパーが、主演兼プロデューサーを務めております。
あらすじ
イラク戦争に出征した、アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズの隊員クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)。スナイパーである彼は、「誰一人残さない」というネイビーシールズのモットーに従うようにして仲間たちを徹底的に援護する。人並み外れた狙撃の精度からレジェンドと称されるが、その一方で反乱軍に賞金を懸けられてしまう。故郷に残した家族を思いながら、スコープをのぞき、引き金を引き、敵の命を奪っていくクリス。4回にわたってイラクに送られた彼は、心に深い傷を負ってしまう。
(シネマトゥデイより)
名匠クリント・イーストウッド監督が、米軍史上最強とうたわれた狙撃手クリス・カイルのベストセラー自伝を映画化した戦争ドラマです。
第87回(2015年)アカデミー賞では、作品賞、主演男優賞など6部門ノミネートされ、音響編集賞を受賞。
BDにて鑑賞。
映画館以来、2度目の鑑賞になります。
本来でしたら日本映画を鑑賞する予定にしていたのですが、本日1月5日がブラッドリー・クーパー、46歳の誕生日と知り、急遽予定変更いたしました。
HappyBirthday!
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争の際、その狙撃の腕前で多くの仲間を救い、「レジェンド」の異名をとる。しかし、同時にその存在は敵にも広く知られることとなり、クリスの首には懸賞金がかけられ、命を狙われる。
数多くの敵兵の命を奪いながらも、遠く離れたアメリカにいる妻子に対して、良き夫であり良き父でありたいと願うクリスは、そのジレンマに苦しみながら、2003年から09年の間に4度にわたるイラク遠征を経験。過酷な戦場を生き延び妻子のもとへ帰還した後も、ぬぐえない心の傷に苦しむことになる・・・。
“レジェンド”と異名を取った海兵隊の狙撃手クリス・カイルの人生を描いた戦争ドラマであり、人間ドラマでもあります。
女性・子どもを含め、米軍史上、一番多くの160人の敵を狙撃(スナイパー)した男の抱えるトラウマが映し出されていきます。
スナイパーと映画監督は「外してはいけない」と言ったかどうかは分かりませんが、傑作を連発しているクリント・イーストウッド。
本作は近年発表した作品の中では一番物議を醸し出した作品と言えるストーリーだと言えるかもしれません。
ただ、ひとつ知っておいて損の無いこととしては、イーストウッドは共和党支持者であること。
またドナルド・トランプの支持者としても知られ、アメリカに住むメキシコ人が大嫌い。
この辺りは、ブラッドリー・クーパーと2度目のタッグを組んだ『運び屋』を観ていただきたいところです。
(右=ブラッドリー・クーパー 左=演じた実際のクリス・カイル)
そんなタカ派(?)のイーストウッド作品なので、アメリカ国内でも賛否分かれた作品です。
ハリウッドの保守派とリベラル派と意見が真っ二つ。
女優のジェーン・フォンダは本作のクリス・カイルの描写を高く評価し、戦争映画としてもすばらしい出来と発言。
反対に映画監督のマイケル・ムーアは「スナイパーは背後から人を撃つひきょう者だと知った。ヒーローでは無い」と批判。(ムーアの祖父は第2次世界大戦で日本軍の狙撃手に射殺されております)
シュワちゃんは本作のエンディングで涙したとツイッターで発言しております。
(Wikipediaを参考にさせていただきました)
本作をどのように評価するのか?
どう捉えるのか?
それは宗教や人種、国籍などは関係無く、その人個人の持つ価値観のような気がいたしました。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(テレビ版『新世紀エヴァンゲリオン』第拾八話「命の選択を」を含む)で、このような描写がありました。
使徒に侵蝕されたEVA3号機(テレビ版では参号機)と闘わない初号機パイロットの碇シンジに父親のゲンドウが「なぜ闘わない?殺されるぞ」と問います。
人が乗っていると知っているシンジは人は殺せない、人殺しになるくらいなら、自分が殺される方がいいという選択をいたします。
前置きが長くなりましたが、殺されそうになったとき、「自分を守るため、相手を殺すべき」か「どんな理由があろうと人を殺めるべきではない」と思うか?
どちらを選ぶ人間かによって、本作の主人公への感じ方が違ってくるかと思います。
彼は多くのイラク兵を射殺してきました。
しかし、彼が引き金を引かなければ、仲間の多くが命を失っていたという現実です。
例え、その銃口の標的が女性・子どもであったとしても・・・。
同時多発テロの映像を観たときの衝撃は死ぬまで忘れられないと思います。
そのとき、自分はどのように考えていたのか?
罪の無い多くの人の命を奪ったアルカイダは悪であり、報復は当然の手段と考えてしまっていたと思います。
しかし、時間が経つにつれ、本当にその考えは正しいのかと思うようになりました。
イラク戦争で米軍に殺されたイラク人の数が同時多発テロの被害者の倍以上と知ったとき、「これが正義と言えるのだろうか?」という疑問も生まれました。
しかし、本作はイラク戦争の是非を問う映画では無く、あくまでもクリス・カイルという男の物語として観るのが正しいように思いました。
彼は国を愛し、妻を愛し、子どもを愛し、仲間の兵士を思いやる心優しい人物であるのは間違いありません。
イーストウッドは彼を英雄として描いてはいないと自分は思いました。
彼が英雄なら、イラク兵を射殺したとき、タイファイターを撃ち落としたハン・ソロの如く歓喜の声をあげていたと思います。
彼の任務成功のときのやるせない表情。
殺されたイラク兵の持っていたロケットランチャーを子どもが拾いあがるシーンで、「捨てるんだ」と祈る姿は切なく胸が張り裂けそうな気持ちになりました。
イーストウッドは共和党支持者だと書きましたが、このイラク戦争やアフガンでの戦いには否定的だったと話しております。
『父親たちの星条旗』では英雄に祭り上げられた男たちの苦悩を描き、『グラン・トリノ』では朝鮮戦争で心にキズを負った男を描いております。
俳優としての代表作『ダーティハリー』のラストシーンを観てもらえば分かると思いますが、彼の作品に登場する男は一見英雄のように見え、実際はその反対でアンチ・ヒーローの姿を描くことの上手い監督であると言えると思います。
エンディングを詳しく書くことはできませんが、このことは製作時は想定外で、本作はクリス・カイル自身も映画のプロジェクトに参加しております。
それだけに映画で描かれる戦場のリアルな描写は凄まじいものがあります。
そのクリス・カイルを見事最高の演技で演じたブラッドリー・クーパー。
もう一度言わせてください。
お誕生日おめでとうございます。