『魂のゆくえ』
原題:First Reformed
2018年製作/アメリカ・イギリス・オーストラリア合作映画/上映時間:113分/G/2019年4月12日日本公開
監督:ポール・シュレイダー
出演:イーサン・ホーク
セドリック・カーン ほか
『タクシードライバー』、『レイジング・ブル』といった名作映画の脚本家として知られる名匠ポール・シュレイダーが、『6才のボクが、大人になるまで。』のイーサン・ホークを主演に迎えて描いたヒューマンドラマです。
信仰というものに疑いを抱き始める牧師の姿が描かれます。
2019年・第91回アカデミー賞において、ポール・シュレイダーが脚本賞にノミネートされております。
あらすじ
ニューヨーク州北部にある小さな教会「ファースト・リフォームド」で牧師をしているトラー(イーサン・ホーク)は、礼拝に訪れたメアリーに環境活動家の夫マイケルについて相談したいと言われる。マイケルは地球の行く末を悲観し、妊娠中のメアリーの出産を止めようとしていた。トラーは、心の中では彼の考えに賛同しつつも、出産を受け入れるように説得する。そんな中トラーは、教会が環境汚染の元凶である大企業からの支援を受けていることを知る。
(シネマトゥデイより)
『タクシードライバー』などの脚本を担当し、『白い刻印』などの監督としても活動しているポール・シュレイダーが描くヒューマンドラマです。
『6才のボクが、大人になるまで。』などのイーサン・ホーク、『マンマ・ミーア!』シリーズなどのアマンダ・セイフライドらが出演。
dTVにて鑑賞。
初めての鑑賞になります。
人生ベスト3に入る『タクシードライバー』の名脚本家、ポール・シュレイダーの作品ということで、「絶対観る!」・・・つもりでしたが、神戸の映画館は2週間で上映終了。
ようやく鑑賞することができました。
もちろん、アマンダ・セイフライドもお目当てでもあります。
トラーは、ニューヨーク州北部の小さな教会「ファースト・リフォームド」の牧師。ある日、トラーはミサに来た若い女性メアリーから、環境活動家の夫マイケルが思い悩んでいるので相談に乗ってほしいと頼まれる。
仕方なく出向いたメアリーの家でマイケルと話したトラーは、彼が地球の未来に思い悩むあまり、メアリーのお腹の子を産むのに反対していることを知る。必死に説得を始めるトラーだが、心の底ではマイケルに共感し自分の説明に納得のできないもうひとりの自分がいる。
一方、彼は自分の所属する教会が、環境汚染の原因を作る大企業から巨額の支援を受けていることを知る。本当の正義とは一体何なのか。トラーの信仰心は徐々に揺らぎはじめ、やがて怒りにも似た感情が彼を蝕んでいくのだった・・・。
かなり宗教色の強い、重厚な作品でした。
本作の主人公トラーは牧師。
キリスト教において、カトリックとプロテスタントという違う教派が存在いたします。
この違いは何かは、ここで記事にすると、とんでもなく長くなるので、簡単な違いだけ。
カトリックでは聖職者のことを「神父」、「司祭」と呼ぶのに対し、プロテスタントは「牧師」と言います。
日曜日に教会で行われる行事(この表現が正しいかは分かりませんが)をカトリックは「ミサ」、プロテスタントは「礼拝」と言います。
お近くにキリスト教の教会があり、教会に書かれていることで、その教会がカトリックかプロテスタントかの違いが分かります。
シュレイダーが50年近く温めていた企画で、「今こそ作らなければ」と製作されたのが2018年。
『タクシードライバー』と同じ脚本家だけに、同じとも思えるテーマが映し出されます。
本作のトラー牧師はイラク戦争で息子さんを亡くしております。
同じ”無意味な戦争の犠牲者”と言えると思いました。
※かなりグロい写真を掲載いたします。苦手な方はご注意を。※
アマンダ・セイフライド演じるメアリーのお腹の子を産むのに反対する旦那。
彼は地球温暖化や環境破壊、来たるべき未知の病原体などを恐れ、これから生まれてくる子どもの将来を心配し、うつ病から自殺してしまいます。
本作の2年後にコロナウィルスが世界中に猛威を振るうことになります。
シュレイダーの先見の明の凄さに唸ってしまいました。
本作は日本というキリスト教の人の少ない国では間違いなく高い評価を得られない作りになっております。
ですが、シュレイダーは大の親日家で、シナリオを担当した高倉健さんが出演した『ザ・ヤクザ』という映画で「義理」というものを問うシーンがあります。
本作でもイーサン・ホークがお刺身を食べるシーンがあり、日本人の自分は何となくですが嬉しくなってしまいました。
「Oh Sashimi My Sashimi」(そんなセリフはありません)
本作とは似ても似つかぬ作品を、この映画を観ることによって、より理解しやすい出来になっていたころに驚きました。
その作品とは「新世紀エヴァンゲリオン」、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』。
「エヴァンゲリオン」という作品はご存知の方もいらっしゃると思いますが、旧約・新約聖書からの引用が多い作品です。
なので、キリスト教でない人には言っている意味や難しい用語、テーマが多く存在いたします。
それらが本作を観ることで、少し分かりやすくなっていたと思いました。
なぜサードインパクトを起こそうとするものが”使徒”と呼ばれるのか?
なぜ碇ゲンドウは”神殺し”なのか?
それらが分かると思います。
アマンダ・セイフライドは本作でも魅力全開でした。
美しい女性はノーメイクでも綺麗ですね。
相変わらずステキで、目も大きかった。(突如小さくなるワケ無い)
「神は与え、そして奪う」・・・みたいな言葉を聞いたことがありますが、地球温暖化や環境破壊は本当に神の意志なのか?
息子を死に追いやってしまい、悩みを打ち明けた人を救えなかった牧師は徐々に信仰について疑問を持ち始めます。
しかし、生命とはまさに「与えられ、奪われる」ものと言えると思います。
生命とは生まれた瞬間から死という奪われる道へと歩み始めることになります。
キリスト教的な解釈ですと、それは試練の時間で、それを全うしたものだけが神(イエス)の下へ辿り着ける。
ですのでキリスト教は自殺、中絶、尊厳死(自ら命を奪う行為)を認めておりません。
自分の教会が環境汚染を起こしている企業から巨額の支援を受けていることを知り、とんでもない行動へ走ろうとするトラー牧師。
この辺りは21世紀の『タクシードライバー』とも言えるような描写でした。
※『タクシードライバー』のエンディングに触れます。これから初めてご覧になられる方はご注意を。※
『タクシードライバー』のラスト、ベッツィーを自宅へ送るシーンは、実はジョディ・フォスター演じるアイリス(オーヤマではありません)を助け出したとき、すでにトラヴィスは死んでしまい、あの世で見た幻想だったという意見を映画専門のYouTubeで聞き、「なるほど、そうだったのか」と思ってしまいました。
もちろん、それは一つの仮定で、本当の意図はスコセッシとシュレイダーにしか分からないと言えるかもしれません。
※本作のエンディングに触れることを書きます。これからご覧になられる方はご注意を。※
本作のエンディングもかなり似ております。
ラストに登場するアマンダ・セイフライドは、まさしく”聖母マリア”と言っていいと思います。
・・・ですが、プロテスタントは聖母マリアをキリストを産んだ女性としか考えておらず、「神では無く普通の人間」と思われております。
それを知って観ると、またいろいろなことを考えさせられる作品だったと言える映画でした。
「観客に解釈を委ねる」という、またまた日本人が一番嫌うタイプの映画。
ですが、本当にしっかりしたテーマを持った作品だったのは間違いないと思います。
ナインティナインの岡村隆史さんがラジオですばらしいことを言ってましたね。
「神様は乗り越えられる試練しか与えない」。
まさに、その通りです。
・・・でも、そのあと余計なこと言っちゃったね。