『イニシェリン島の精霊』
原題:The Banshees of Inisherin
2022年製作/イギリス映画/上映時間:114分/PG12/2023年1月27日日本公開
監督:マーティン・マクドナー
出演:コリン・ファレル
ケリー・コンドン ほか
『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督が、人の死を予告するというアイルランドの精霊・バンシーをモチーフに描いた人間ドラマです。
島民全員が顔見知りであるアイルランドの孤島を舞台に、親友同士の男たちの間で起こる絶縁騒動が描かれます。
2022年・第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門でマーティン・マクドナーが脚本賞を、コリン・ファレルがポルピ杯(最優秀男優賞)をそれぞれ受賞。
あらすじ
本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島・イニシェリン島。島民全員が知り合いである平和な島で、パードリック(コリン・ファレル)は長年の友人であるはずのコルム(ブレンダン・グリーソン)から突然絶縁されてしまう。理由も分からず動揺を隠せないパードリックは、妹のシボーンや隣人ドミニクの助けも借りて何とかしようとするも、コルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と言い渡される。やがて島には、死を知らせると伝承される精霊が降り立つ。
(シネマトゥデイより)
『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督による人間ドラマです。
2023年・第80回ゴールデングローブ賞において、最優秀作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、最優秀主演男優賞(コリン・ファレル、ミュージカル・コメディ部門)、最優秀脚本賞(マーティン・マクドナー)の3部門を受賞。
2023年・第95回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演男優賞など8部門9ノミネート。
Disney+にて鑑賞。
初めての鑑賞になります。
わたくし個人の2010年代鑑賞映画、ベストワンの『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督の新作、アカデミー賞ノミネートなどもあり、楽しみにしておりました。
本年1月公開作品が早くも配信で鑑賞できるのは嬉しい限りですね。
内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さな島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。
急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。
美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた・・・。
劇作家としても活躍している『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーが脚本・監督を手がけた、1920年代、内乱に揺れるアイルランド本土に近くにあるイニシェリン島を舞台に親友の仲違いを描いたブラックコメディと言える人間ドラマです。
『スリー・ビルボード』に似た感覚のある映画で、正直、一筋縄ではいかない内容の映画です。
分かりやすいストーリーではありませんし、なぜ長年の親友が仲違いしてしまうかの説明もありません。
分かりやすい映画を好む方には不向きな映画です。
この映画を少しでも分かりやすくするためのポイントを少し。
まず、映画で描かれる対岸のアイルランドの内戦です。
独立したアイルランドという国の誕生ののちに、考え方の違いから国内で内戦が起こり、その内戦は一年に及び、アイルランドの人口の約1/10の死者を出したとのことです。
場所は違いますが、ケネス・ブラナーの『ベルファスト』でも内戦を描いてますね。
その本土のアイルランドの内戦をなにも無い島の2人の男を照らし合わせて描いております。
続いて、タイトルになっている『イニシェリン島の精霊』の精霊ですが、原題のThe Bansheesは精霊では無く”妖精”が正しく、アイルランドで伝わる泣き叫ぶ姿をした女性の妖精のことを指して、映画では死を予言する老婆が登場いたします。
なぜ人は争いを起こすのか?
それがよく伝わり、そこを考えるとそれほど難しい映画では無いと思いました。
特に”内戦”となると、他国との戦争以上にとことん相手を叩きのめすまで戦うところがあることを踏まえ、考え方の違いで長年の親友が内戦状態になる姿が凄まじく感じます。
ド田舎の島を舞台に、農業をして平凡な日々を過ごしているパードリック。
音楽を愛し、芸術を残したいと思っているコルム。
これまで何ごとも無く過ごしていた2人が突如ケンカ、絶縁状態に・・・。
なにも無い島なので、ウワサはアッと言う間に広まり、多くの人を巻き込んでいきます。
コリン・ファレル演じるパードリックの妹・シボーンを演じているケリー・コンドン。
アカデミー賞助演女優賞ノミネートも納得のすばらしい演技でした。
ご本人もアイルランド出身で、『アベンジャーズ』シリーズで人工知能フライデー役の声を務めていたそうです。
演じた役も面白く、ヴァイオリンを愛するコルムが「17世紀の音楽家モーツァルト」と言うシーンで、読書家の彼女は一枚上手で(島で一番頭がいいと言えます)「モーツァルトは18世紀の音楽家よ」と言い返すシーンは痛快でした。
そのシボーンに恋心を抱く青年を演じたバリー・コーガン。
彼もアカデミー賞助演男優賞ノミネート。
彼も最高の演技を披露しておりました。
マーティン・マクドナー監督は俳優の演技力を引き出すのが上手いですね。
コリン・ファレルはキャリア最高と言える演技だったと思います。
最初、親友から絶縁され、トレードマークの八の字まゆ毛にして泣きそうな表情で「どうして~?」みたいな情けないところがいいです!
しかし、ある出来事をきっかけに2人は冷戦状態にまで発展していきます。
ここからまゆ毛が八の字になりません。
表情やセリフだけでなく、まゆ毛も演技するコリン・ファレルにあっぱれ!
ワンちゃんとロバが登場しますが、こちらも名演。
ドッグトレーナーのような人がロバの演技指導をしている映像特典がありましたが、シナリオの段階で「ロバが近づいてくる」などと細かく書かれていたそうで、コリン・ファレルが「そんなこと可能なのか?」と疑問を抱いていたのですが、見事な演技で監督の期待に応えていたと思います。
人工の少ない島。
それだけに島民はフレンドリーや家族的な関係・・・のようなものが築かれておらず、登場人物が全員ギスギスしながら生きているところがアイルランドというお国柄なのかな?と思ってしまいました。
まあ、日本も田舎は他人の干渉が多いのは間違いありませんが・・・。
「芸術」は永遠でも「優しさ」と言うものは永遠では無いのでしょうか?
本当に些細なことからのケンカが「お互い、どちらかが墓に入るまで終わらない」戦争にまで発展する物語は、今起こっているロシアとウクライナの戦争にも共通するところが多いです。
『スリー・ビルボード』同様、ラストのセリフが強烈でした。
本当にすばらしいシナリオで、『スリー・ビルボード』同様、今回もオスカー受賞逃してしまいましたが、アカデミー賞はもっとマーティン・マクドナーの才能を評価してもいいのでは?と思いました。
本作も間違いなく大傑作でした。