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『ルパン三世 カリオストロの城』

ルパン三世 カリオストロの城

 

1979年製作/日本映画/上映時間:100分/G/1979年12月15日日本公開

 

  監督:宮崎駿

声の出演:山田康雄

     小林清志

     増山江威子 ほか

 

数多くの名作アニメで世界的な名声を得た宮崎駿の記念すべき長編初監督作です。

ヨーロッパのカリオストロ公国を舞台に、偽札製造や後継者問題などに揺れる小国の行方と、王女クラリスとルパンの関わりなどが描かれます。

 

あらすじ

 

ルパンと次元は大金を盗み出したもののそれが偽札だとわかり、自分たちがつかまされた偽のゴート札の秘密を探ることにする。彼らはヨーロッパの小国カリオストロ公国を訪れ、偶然にも何者かに追われていた少女クラリスを助け出す。しかしクラリスは、ルパンが崖から落ちて意識を失っている間に謎の一味にさらわれてしまう。カリオストロ公国の王女である彼女は、国を支配しようとするカリオストロ伯爵の命令で幽閉されてしまい……。

シネマトゥデイより)

 

1979年に製作・公開された「ルパン三世」劇場用映画のシリーズ第2弾で、宮崎駿監督の劇場初監督作品として知られる作品です。

2014年に5.1chサラウンドにも対応させたデジタルリマスター版が劇場公開。2017年1月には体感型上映システム「MX4D」に対応したMX4D版が公開され、2019年11月には「MX4D」「4DX」の2タイプの体感上映システムに対応した4D版が公開されております。

 

4K Ultra HD BDにて鑑賞。

もう何回目の鑑賞か覚えておりません。

1979年12月の初公開時、劇場で観ております。

 

今回本作を取り上げようと思った理由、経緯は後ほど。

 

盗み出した大金が偽札と気づいたルパンと次元は、偽のゴート札の秘密を探るため、カリオストロ公国へやって来た。そして謎の男たちに追われていた少女クラリスを助けるのだが・・・。

 

先日、日本テレビ系の「金曜ロードショー」で放映されたみたいですね。

それに合わせ、アニメ評論家(という肩書きでいいのか分かりませんが)の岡田斗司夫氏が本作を深掘りした動画を上げていて、これが面白かったので、改めてもう一度見直してみようと思いました。

岡田斗司夫氏の動画からの抜粋がほとんどですが、まんまコピーですとパクリになりますので、それに合わせ、自分なりの解釈、当時の製作現場のことなどを綴りたいと思っております。

 

※完全ネタバレの記事になります。まだご覧になれていない方はご注意を。※

 

本作の前にどうしても語らねばならないのが、「ルパン三世」最初のテレビシリーズです。(以下1st)

故・モンキー・パンチ先生の1967年発表された原作を基に、日本で初めての「大人向けアニメーション作品」を製作しようという目標で1971年立ち上げられた作品です。

物語の基本的なベースとして、アメリカのアニメーション「トムとジェリー」があげられております。

頭のいい(ズル賢い)ネズミのジェリー(=ルパン)を追いかける少しおマヌケなトム(=銭形警部)のような筋書きに、大人向けテイストを加えようと考えていたそうです。

ただ、ハードボイルドな内容とセクシー描写が多かったことなどがあり、当時良ければ30%、悪くても20%は取れると言われたテレビアニメーションの視聴率で初回6%、以降も3%台と信じられない数字で、最初に携わっていた監督は方向転換を余儀なくされ、それに反発して監督を降りてしまいました。

監督不在で、白羽の矢が立ったのが、故・高畑勲監督と宮崎駿監督。

宮崎監督は方向転換の際、まずルパン三世のバックボーンの変更をするようにいたしました。

ルパン三世はその名の通りアルセーヌ・ルパンの三代目。

原作、そしてアニメーション作品の前半での設定はフランスの泥棒貴族ですでに超大金持ち。

泥棒は盗むことを目的では無く、単に娯楽としておりました。

これを宮崎監督はイタリアの貧しい男と変更。

前半のOPに乗っている自動車(写真が見つからずフィギュアのものでご了承を)は世界に30台しか無い高級車でフェラーリのエンジンを搭載。

お値段は50億円は下らない品物だそうです。

 

そのルパンの愛車をフィアット500チンクに変更。

その経緯が面白く、安っぽい車を・・・と考えていた宮崎監督はスタジオの駐車場に止めてあったフィアット500チンクを発見し、「あれくらい安っぽいのにしよう」と決定。

しかし、その自動車は作画監督大塚康生氏のものでした。

当初の目的のものより明るいタッチ、お色気も少なくなったのですが、視聴率は上がらず、2クールもたず、全23話で番組は終了。

 

ですが、再放送で人気を博し(再放送は当初の放送の4倍以上の視聴率でした)、新たなルパン三世を観たいという子どもたちの要望に応えるかたちで1977年から2ndシーズンが製作されます。
ルパンのジャケットの色は2ndシーズンから原作通りの赤に。

なぜ1stでは赤では無く緑だったのかと言うと、1971年当時、まだモノクロテレビの家庭もあった時代で、鮮明に赤を再現できるテレビが少なかったことが理由とされております。

 

2ndシーズンは人気でアニメーション作品としての「ルパン三世」初の劇場版(1978年、『ルパンVS複製人間』と言われている作品です)も大ヒットを記録いたします。

それに次ぐ、劇場版第2作として製作された本作ですが、2ndから一切参加していない宮崎監督の再登板の理由・・・。

岡田斗司夫氏の話しですと、この頃、ディズニーのスタッフと共同でジョージ・ルーカスがプロデューサーとして日米合作の大がかりなアニメーション映画の企画があったそうで、まだ長編映画の製作が無かった宮崎監督は手っ取り早く・・・と言った感じで、1作目が大ヒットをした「ルパン三世」を題材に選んだと言っておりました。

 

1stで作画監督を手がけた大塚康生氏も参加。

ですが、当初の宮崎監督の企画では本作に峰不二子石川五右ェ門の登場の予定は無く、ルパン、次元大介銭形幸一(銭形警部、とっちゃんのフルネームご存じ無い方のため記載いたします)の3人だけがレギュラーメンバーからの登板予定でした。

「それでは困る」と上からの指示で、仕方なく(?)五右ェ門を登場させることにした宮崎監督。

今まで数多く鑑賞しておりましたが、今回岡田斗司夫氏の動画で、初めて冒頭のシーンに五右ェ門と斬鉄剣が映っているのを発見いたしました。

まあ、カジノの追っ手の車が真っ二つになるシーン、あんな芸当は五右ェ門にしかできないですね。

 

五右ェ門は後から来たのか、今まで多少疑問に思っておりましたが、そのような裏事情からカリオストロ公国へはルパンと次元の2人だけで行く理由が分かりました。

 

監督の意にそぐわないかたちでの登場になった不二子と五右ェ門でしたが、後付けで悪い立ち位置では無かったように思いました。

不二子がいなければルパンは死んでいたかもしれませんし、「またつまらぬものを斬ってしまった」というカッコいいセリフも聴けましたし。(このシーンは最初の劇場公開のとき、満員の映画館爆笑につつまれておりました)

 

ルパンはなぜ、50億(円では無くドル、なので当時のレートだと7,500億円くらい?)ものゴート札を捨ててしまったのか?

国営カジノにまで出回る、劇中でも「ホンモノ以上」と言われているほどのものを・・・?

そして、思いっきり飛びますがエンディングのルパンはクラリスを助け出したにも関わらず、彼女のもとから去っていってしまったのか?

 

その理由らしきことを宮崎監督は本作公開の約1年後にアニメージュという雑誌で語られております。(あくまで「らしき」ですが)

「結局ルパンは偽物しか盗れない。大金にしても、そして宝にしても。しかも助け出した少女を抱きしめることも唇にキスすることもできない、盗み出せたものは、せいぜい少女の心というかたちの無いものだけのちっぽけな男になってしまったと言うことです」。

 

「オレのポケットには大きすぎるぜ」というセリフはお宝では無くクラリスのことを言っていたのかもしれません。

本作のエンディングはこの宮崎監督のコメント関係なく観て、ハッピーなのかバッドなのか意見が分かれるものだと思っておりましたが、この宮崎監督のコメントを聞いてしまうと、あのとっちゃんの名セリフも切なく感じるバッドエンディングなものだったのか~と思ってしまいます。

クラリスに笑顔で手を振ったあと、車中で次元に「残ってもいいんだぞ」と言われたときのルパンの悲しそうな顔は印象的です。

その後、後ろから不二子の単車が来るのですが、ゴート札の原板を欲しがる素振りは涙を見せたく無かったルパンの精いっぱいの強がりにも映るものでした。

 

そのような多くの裏事情があった本作ですが、今観てもスピード感のある、初監督作品とは思えないクオリティの高い出来のアニメーション映画だと言えます。

アニメーションの場合はどうしてもストーリーが良くても年月経つと作画の古さを感じてしまうものが多いのですが、本作にはそれもありません。

大塚康生氏が本当にいいお仕事されました。

そして、何よりクラリス・ド・カリオストロの存在でしょう。

 

これは裏事情でも何でもありません、劇中語られていることですが、たしかに彼女の家系は汚れております。

しかし、そんなことをまったく感じさせない清楚で優しさを持った明るい彼女の存在は観る人の心をつかむと思います。

あの五右ェ門が顔を赤らめてしまうほどですから。

ですが、世間知らずの温室育ちの女の子なところもあり、不二子に「捨てられたの?」と言うセリフは笑えます。

ルパンが不二子を捨てられるほどのモテ男では無いと誰が見ても分かることなのですが・・・。

 

ルーカスプロデュースで作られる日米合作アニメーション映画のため、本作と高畑勲監督の『じゃりン子チエ』(1981)の試写会が行われ、当時のディズニーのアニメーターは日本のアニメのクオリティに驚いたそうです。

ただ、ルーカスがアニメーションに興味が無く、プロデューサーを降り、代わりに『スター・ウォーズ』最初の3部作の製作を担当したゲイリー・カーツがあとを引き継ぐのですが、この人がスタッフに文句ばかりつけ、結局企画倒れで終わり、カーツはその後の映画作りでも失敗を繰り返し、1986年に破産し、映画界から引退しております。

 

高畑・宮崎監督のアメリカン・ドリームは幻になってしまいました。(黒澤明のハリウッド進出もダメでしたし、難しいですね)

 

もし企画が実現していたら、宮崎監督がアメリカデビューしていたと思うと残念です。

ですが、日本で多くの傑作を生み出したことから、「アニメーションは子どもだけが観るものでは無い」ことを証明したのも宮崎監督です。

宮崎監督がアメリカに行ってしまっていたら、今でもアニメ好きの大人は日陰の存在だったようにも思います。

 

いろいろなことを書きまくりましたが、シンプルに「ルパン三世」の1エピソードとして観ても、1本のアニメーション映画として観ても、本当に面白い映画であることは間違いありません。

本作で一躍有名になられたクラリスを演じられた島本須美さんの功績も大きいです。

この作品が無ければ、後の『風の谷のナウシカ』も存在しません。

 

ただ、このルパンはあくまで”宮崎ルパン”であって、モンキー・パンチ先生の原作のファンや1stの前半パートが好きな人には不評です。

自分も、唯一否定的な意見を言わせていただくとするならば、テレビの1stシリーズ、第21話の「ジャジャ馬娘を助けだせ!」というエピソードに少し似ているところはあるように思いました。

本作や『天空の城ラピュタ』など、宮崎監督は美少女を助け出すというストーリーがお好きのようですね。

 

yahoo!映画レビュー平均点、驚異の4.6点。(5点満点)

多くの人の心を盗んでいった映画であることも間違いありません。

宮崎駿監督の代表作の1本だと思います。

 

最後に余談で、なぜ岡田斗司夫氏の動画を観たかと言いますと、岡田斗司夫氏の『NOPE/ノープ』の感想動画を観ていて、この作品を語ったものを見つけました。

岡田斗司夫氏は『NOPE/ノープ』は面白くなく、嫌いだそうです。

 

 

本作の音楽を担当したのが、2ndシーズンから参加の大野雄二氏。

劇中、テレビシリーズの曲はあまり使われず、オリジナルの曲が多いです。

特に人気の曲がこちら。

お時間がありましたら、ぜひ聴いてみてください。