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『ある男』

『ある男』

 

2022年製作/日本映画/上映時間:121分/G/2022年11月18日日本公開

 

監督:石川慶

出演:妻夫木聡

   安藤サクラ

   窪田正孝 ほか

 

芥川賞作家・平野啓一郎の同名ベストセラーを『蜜蜂と遠雷』の石川慶監督が映画化したヒューマンミステリーです。

死後に別人と判明した男の身元調査を依頼された弁護士が、他人として生きた男の真実を追う姿が描かれます。

 

あらすじ

 

弁護士の城戸章良(妻夫木聡)は、かつての依頼者である谷口里枝(安藤サクラ)から亡き夫・大祐(窪田正孝)の身元調査を依頼される。離婚歴のある彼女は子供と共に戻った故郷で大祐と出会い、彼と再婚して幸せな家庭を築いていたが、大祐が不慮の事故で急死。その法要で、疎遠になっていた大祐の兄・恭一(眞島秀和)が遺影を見て大祐ではないと告げたことで、夫が全くの別人であることが判明したのだった。章良は大祐と称していた男の素性を追う中、他人として生きた男への複雑な思いを募らせていく。

シネマトゥデイより)

 

「マチネの終わりに」などで知られる平野啓一郎の小説の映画化です。

主人公を『愚行録』などの妻夫木聡、彼に調査を依頼する女性を『百円の恋』などの安藤サクラ、彼女の亡き夫を『初恋』などの窪田正孝が演じるほか、眞島秀和、仲野太賀、真木よう子柄本明らが共演。

 

Netflixにて鑑賞。

初めての鑑賞になります。

 

2022年・第97回キネマ旬報ベストテンで日本映画ベストテンで1位の『ケイコ 目を澄ませて』に次ぐ2位との高評価(対する?映画芸術ワーストテンでは2位『シン・ウルトラマン』に次いで3位と低評価でした。映画芸術キネ旬と真逆路線を意図的に選んでいる傾向がありますね。ただ、どちらもベストワンは『ケイコ~』でしたが)に惹かれて鑑賞を楽しみにしておりました。

ただ、ご出演しているとは知らず、柄本明さん、連発になってしまいました。

 

人間、どんなに頑張っても過去は変えることはできない。

しかし、日本には戸籍制度なるものが存在する・・・。

 

監督が目指したという、昭和の日本映画の名作『砂の器』を彷彿させる物語に加え、そのころ(原作は1960年~1961年に連載)から変わらない、と言うよりも今の方がより強く伝わると思える”先入観”、’偏見’、”差別”などが描かれた、キネマ旬報ベストテン2位も納得の傑作だと思いました。

 

(またかの「ウルトラセブン」ネタです)

また、人間誰もが持つ”名前”というものの存在価値のようなものが上手く描かれていたように思いました。

「私たちの知っているモロボシ・ダンという男は、実は340号という味気ない名前で、顔は薩摩次郎という男がモデルだった!」(後半は余計だったかな?)

はたまた、

「私たちと冒険した考古学者は実は犬の名前だった!」・・・みたいな。

 

谷口大祐と呼ばれていた男はまったくの別人だった。

「谷口さん」

「違う、私は谷口じゃない」

「じゃあ”そっくりさん”や!」・・・なるシーンは無し。

 

冒頭登場するルネ・マグリットの「複製禁止」という絵画。

これを知ったのが鑑賞後だったのですが、知ったうえでの鑑賞だと、また違ったものが感じられたかもしれません。

 

まったくの他人と戸籍を交換し別人として生きようとするある男・・・。

当然知らなかった人間には彼が谷口大祐と信じてしまいます。

完ぺきに複製された男。

まるで団地の住人全員が宇宙人と入れ替わったエピソードのように・・・。(それとは少し違うような気が?)

 

妻夫木聡さんの演技が本当にすばらしい。

在日三世という色メガネで見られてしまう弁護士を好演しておりました。

キネマ旬報ベストテンで主演男優賞で2位。

1位(最優秀)は作品は未見ですが、沢田研二さん。

う~ん、人間性や忖度一切無しで作品だけで選考しているキネ旬には好感持てますが、逆に「人間性」で妻夫木さんを1位にしてあげたかった気がいたしますが、この作品が、そういった”先入観”の問題追及している作品なので、仕方ないのかな?

 

鑑賞前は安藤サクラさんが主人公だと思っておりましたが、違いました。

中盤、一切登場シーンがありませんが、それでも鑑賞後印象に残る名演を披露していたと思います。

残念ながら義父との直接の共演シーンは無し。

 

2022年の日本映画界は『大怪獣のあとしまつ』、『”それ”がいる森』(←こちらは未見。現在Amazonプライムビデオ、Netflixにて絶賛配信中)が日本映画史上サイテーとあまりに(悪い意味で)レべちな作品があったので目立たなかったのですが、こちらも十分酷かった『耳をすませば』(実写版)と同じ人とは思えない(前置き長過ぎ)清野菜名さんも光っておりました。

 

シネマトゥデイで「柄本明史上ベスト怪演」と評されておりましたが、たしかに柄本明さん良かったです。

・・・ですが、ガラス越しでの会話シーンが2回だけ。

比較してはいけないと分かりつつ、レクター博士を演じた方にはやはり及ばなかった。

 

子役の演技も良かったです。

母の離婚、再婚、夫の死別で「ボク、また苗字変えなければいけないの?」というシーンにはせつなく胸が熱くなってしまいました。

 

実際の谷口大祐の実兄を演じた眞島秀和さんのクズっぷり演技も良かったですね。

この方、あまり存じあげ無かったのですが、経歴調べましたら驚愕の、先ほど紹介した『大怪獣~』、『~がいる森』両方に出演。

この作品が無ければ、2022年は目も当てられない年になっておりました。

この方も過去を抹消したいと願っているかもしれません。

 

窪田正孝さん、いつも通りの名演。

ボクシングシーン、おそらくかなり練習されたと思うのですが、まったく違和感ありませんでした。

この年の日本映画は「ボクシング映画は当たり。怪獣・宇宙人はハズレ」だったみたいですね。

・・・まあ、『シン・ウルトラマン』も翌年の『シン・仮面○イダー』に比べればというものもありますが、美波ちゃんご出演されているのであまり悪く書きたくない気も。

ご主人が出演していたので、安藤サクラさんのご意見も聞いてみたいところですが、やはり自分には一文字隼人は佐々木剛さん以外考えられないんですよね~。(話しが脱線しているぞ)

 

妻夫木聡さんの同僚役の小籔千豊さん、ボクシングジムの会長役のでんでんさん、今話題の若手女優の河合優実さんと皆さん、とてもいい演技だったと思います。

だけにね~、言いたくはありませんが(本当は声を大にして言いたい)真木よう子さん、『孤狼の血』でも1人足を引っ張っておりましたが本作も・・・。

同じ真・・・で始まる真希波・マリ・イラストリアスを見習って頑張ってくださいね。

(何を見習うのだろうか?)

 

戸籍を入れ替え、別人になれば過去は洗い流されるかもしれません。

しかし、それですべてが良くなることは決してありません。

変わらない、むしろ変えていかなければならないのは周囲の人間の持つ潜在意識。

偏見や差別が無くならない限り、第二、第三の谷口大祐が生まれてしまうように思いました。

 

「熱中時代」で水谷豊さんの妹を演じた池上季実子さんがバルンガと化していたのは(その表現やめなさい)ショックでしたが、それ以上に強烈なインパクトを与える重厚な日本映画だと思いました。

あまりに重いので、オススメするかは迷うところですが・・・。

 

「犯罪者の子どもは陽の当たる所へは出られないのか?」。

「死刑囚の息子は父親と同じ穢れた血が流れているのだろうか?」。

様々なことを考えさせられる映画でした。

 

ラストにまた大きな驚きが・・・。

重い映画に抵抗のない方はぜひともご覧になっていただきたい力作です。