『フェイブルマンズ』
原題:The Fabelmans
2022年製作/アメリカ映画/上映時間:151分/PG12/2023年3月3日日本公開
出演:ミシェル・ウィリアムズ
セス・ローゲン ほか
『E.T.』など数多くの傑作を生み出したスティーヴン・スピルバーグ監督の自伝的作品です。
第47回トロント国際映画祭で最高賞に当たる観客賞を受賞。
2023年・第80回ゴールデングローブ賞では最優秀作品賞(ドラマ部門)、最優秀監督賞を受賞。
2023年・第95回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ)など計7部門にノミネート。
あらすじ
初めて訪れた映画館で映画に魅了された少年サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)。その後彼は8ミリカメラを手に、家族の行事や旅行などを撮影したり、妹や友人たちが登場する作品を制作したりするなど、映画監督になる夢を膨らませていく。母親(ミシェル・ウィリアムズ)が応援してくれる一方で、父親(ポール・ダノ)は彼の夢を本気にしていなかった。サミーはそんな両親の間で葛藤しながら、さまざまな人々との出会いを経て成長する。
(シネマトゥデイより)
映画に心を奪われた少年がさまざまな人々との出会いを通じて成長し、映画監督になる夢を追い求める、巨匠スピルバーグの原体験を映画化した作品です。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』などのミシェル・ウィリアムズ、『THE BATMAN-ザ・バットマン-』などのポール・ダノのほか、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュらが出演。
Amazonプライムビデオにて鑑賞。
初めての鑑賞になります。
いや~、昨日はトンデモ映画を紹介してしまい、心苦しく思っております。
この勢いで『ジョン・ウィック4』(こちらもR15+指定)まで行っちゃうと、「お前は暴力的な映画が好き」と思われてしまうので、今回は昨年のアカデミー賞作品賞候補だったスピルバーグ監督の自伝的映画を選びました。
・・・こちらは家族を描いたストーリーではあるのですが、PG12指定でした。
理由は下品な言葉&マリファナ吸うシーンだと思われます。
初めて、映画館を訪れて以来、映画に夢中になったサミー・フェイブルマン少年は、8ミリカメラを手に家族の休暇や旅行の記録係となり、妹や友人たちが出演する作品を制作する。そんなサミーを芸術家の母は応援するが、科学者の父は不真面目な趣味だと考えていました。
そんな中、一家は西部へと引っ越し、そこでの様々な出来事がサミーの未来を変えていきます。
両親との葛藤や絆、そして様々な人々との出会いによって成長していきます・・・。
巨匠映画監督のスティーヴン・スピルバーグの半自伝的作品です。
初めて映画館の大スクリーンに映し出される映像に出会った少年が映画というものに魅せられ、自ら映画監督へ進む道が様々な葛藤と共に描かれます。
初めての映画館体験に興奮気味のサミー。
その帰りの車内の会話で、「我が家は・・・」と少し迷ってしまった父親に、時期がクリスマスに近く「飾り付けが無い家だよ」と言うシーン。
何気ない会話ですが、ここでユダヤ人である自分の家族、他者との違いを映し出す、何か寂しげな気持ちにさせる描写でした。
芸術家を目指しながら、主婦であるためその夢を捨ててしまった母親。
ミシェル・ウィリアムズ、名演です。
竜巻が発生したとき、普通は怯えるのですが、「近くへ見に行こう」と子どもたちを自動車に乗せるところは、凄い肝っ玉母ちゃんだな~と思いました。
ポール・ダノ演じるお父さんは「科学の発展こそ未来の姿」的な考えの芸術よりサイエンス好きな機械ヲタクのような人物。
共に自分の好きなものに没頭して過ぎると周りが見えなくなるところがあり、後の映画監督のスピルバーグに多大な影響を与えた人物だと分かります。
母方のお爺ちゃんが訪ねてくるシーンがあります。
このお爺ちゃんもアートの世界に理解があり、サミーの映画好き、カメラを回すことにエールを贈ります。
普通の伝記ものですと、様々な人の反対を押し切り・・・みたいな展開が多いのですが、スピルバーグはそういった点では、良き理解者に恵まれていたのだと感じました。
映画評論家の町山智浩氏の受け売りになってしまいますが、1960年代後半までアメリカ映画は流血シーンを禁止していたそうです。
しかし、若き日のスピルバーグこと少年サミーは自主映画で戦争ものを製作し、そこで撃たれた兵士の胸から流血する場面を作っております。
ここもスピルバーグの凄さを感じるシーンだったと思いました。
また、時に映像は映してはいけなかった、知ってはならなかったものを映してしまうものだということも、しっかりと描いております。
スピルバーグの自伝的作品なので、若き日に観て好きだった映画を語りつくす・・・のかと思っていたら、そのようなシーンはほとんど無く、彼はごく普通の自分の家族の日常をカメラで写すことに没頭します。
スピルバーグの作品に家族の物語や描写が多いこともうなずける気がいたします。
高校生になったサミーはカリフォルニアに移り、そこでユダヤ人差別のイジメに遭ってしまいます。
ケンカに自信の無いサミーの武器はカメラ。
本人にその気があったのかはハッキリ描いていないので憶測や推測を挟んだ見解になりますが、ある「おサボり会」という遠足のような催しでイジメていた少年への復讐に成功するサミー。
ごくありきたりと思われるドキュメンタリーで偽りを生み出すテクニック。
これも映像が持つマジックと言えるかもしれません。
終盤の物語の核と思われる両親の離婚。
これがサミーにとって重くのしかかってきてしまいます。
このエピソードがスピルバーグの代表作の1本の『E.T.』に現れていたと思います。
大学を中退したサミーは映画スタジオに入社いたします。
その初日にあ、あの偉大な巨匠監督と出会い、アドバイス的なものをもらう。
これが本当のエピソードだとすると、凄すぎ!と思ってしまいました。
観ている私はその巨匠監督を演じた巨匠監督にビックリいたしましたが・・・。
今はスマホで動画撮影できる時代で、誰もが”自称・映画監督”になれますが、この時代、高い8mmカメラに編集器具、フィルムを購入し、ひたすらカメラを回し続けた少年がやがて世界を代表する映画監督になると思いながら鑑賞していたら、自然と胸が熱くなりました。
念願だった(と思われる)ミュージカル映画を作り、そして自伝。
もしかすると、これが引退作になってしまうかもしれませんが、それを自己満足のものにするのでは無く、ちゃんと多くの人に夢を持つことのすばらしさを伝えるものに仕上がっていたところはさすがだと思いました。
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』以来のサルへの演技指導も完ぺきでした。