『シン・仮面ライダー』
2023年製作/日本映画/上映時間:121分/PG12/2023年3月17日日本公開
監督:庵野秀明
出演:池松壮亮
柄本佑 ほか
1971年から1973年にかけて放送された石ノ森章太郎原作の「仮面ライダー」50周年プロジェクトとして、『シン・ゴジラ』などの庵野秀明が監督を務めた特撮アクション映画です。
仮面ライダーこと本郷猛を池松壮亮、ヒロインの緑川ルリ子を浜辺美波、仮面ライダー第2号こと一文字隼人を柄本佑が演じ、西野七瀬や塚本晋也、森山未來などが共演。
あらすじ
望まぬ力を背負わされ、人でなくなった男。与えられた幸福論に、疑問を抱いた女。
SHOCKERの手によって高い殺傷能力を持つオーグメントと化した本郷猛(池松壮亮)は、組織から生まれるも反旗を翻した緑川ルリ子(浜辺美波)の導きで脱走。迫りくる刺客たちとの壮絶な戦いに巻き込まれていく。正義とは?悪とは?暴力の応酬に、終わりは来るのか。力を得てもなお、“人”であろうとする本郷。自由を得て、“心”を取り戻したルリ子。運命を狂わされたふたりが選ぶ道は・・・。
(Amazonプライムビデオより)
1971年放送開始の特撮テレビドラマ「仮面ライダー」を、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』などの庵野秀明が監督・脚本を手がけて新たに映画化した作品です。
キャストに主人公・本郷猛/仮面ライダー役に『宮本から君へ』の池松壮亮、ヒロイン・緑川ルリ子役に『賭ケグルイ』シリーズの浜辺美波、一文字隼人/仮面ライダー第2号役に『ハケンアニメ!』の柄本佑ら。
Amazonプライムビデオにて鑑賞。
初めての鑑賞になります。
あまりに評判が悪かったので、多くは期待はしておりませんでしたが、やはり昭和ライダーで育った世代、『エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督作品ということもあり、配信を楽しみにしておりました。
※ネタバレを含み記事になります。これからご覧になられる方はご注意を。※
人前に出ることを嫌う庵野秀明監督が、製作発表の記者会見に現れ、本当に嬉しそうに「ノスタルジーは捨てたくない」、「自分にとって本郷猛は藤岡弘、さんしか考えられない」など、熱いライダー愛を語り、新たにデザインされたサイクロン号を笑顔で紹介する姿に「嗚呼、この人は自分と同じ、本当に仮面ライダーが好きなんだな~」と思い、そのうえ、大好きな浜辺美波ちゃんが緑川ルリ子を演じると聞き、期待しかない・・・はずだったのですが。
それが、なんでこんななっちゃったんでしょうか?
嫌な予感がしたのは、あまり興行成績がよろしく無く、PR用にAmazonプライムビデオで作品の冒頭10分(クモオーグとの対決の辺りまで)を配信されたものを鑑賞したとき、エンドクレジットでそこまでに出演した俳優さんとスタッフの名前が出たとき、あ、あの・・・
「昭和ライダーの敵、バンダイの味方。お見せしよう・・・」(←ホンモノの一文字隼人風)
東映の白倉伸一郎(以下白倉P)がエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされていたことです。
石ノ森章太郎先生と仮面ライダーを心の底から忌み嫌うこの男の下では庵野監督も好きなように作れないな~と思いました。
監督の作家性など白倉Pの前では無意味。
とにかくバンダイが喜ぶものを作れと命令されたのだと思います。
その昔(と言うほど古くも無いですが)、大月俊倫プロデューサーと庵野秀明監督が「スポンサーに気をつかわず、自分たちの作りたいものを作ろう」と言って作られたのが「新世紀エヴァンゲリオン」です。
もし、この映画が、その精神で作れたら・・・と思ってしまいました。
「仮面ライダー 生誕50周年記念」の作品に、ショッカー、ゲルショッカー首領や大幹部以上にライダーを嫌う白倉Pが携わること自体、昭和ライダーのファンには許しがたいことですね。
(わたくしはこの3ショットの写真見て泣きました。😭最近撮影されたものです)
当時のメインスタッフはほとんど亡くなられていて、残念ながらメインで生き証人の人はこのお三方くらいになってしまいましたが、本作を観た一文字隼人こと佐々木剛さん(写真右)は「まったくの別もの。憤りすら感じた」と怒りをあらわにしておりました。
「オレや藤岡はそれこそ命を張って演技をした。命綱無しでヘリコプターにぶら下がったりもした。本当に死ぬ覚悟で一文字隼人を演じた。それを何でもかんでも機械(CG)で描きやがって」と大激怒。
藤岡弘、さんも撮影中、足が90度反対になるほど曲がる大ケガをされております。
普通の人でしたら、そんな大ケガをされたら、ふたたびバイクに乗る勇気は無いと思います。
しかし、藤岡弘、さんは頑張ってリハビリを繰り返し、撮影現場に帰ってきました。
昭和の根性論を今の時代に唱えても無意味かもしれません。
ですが、藤岡弘、さんも佐々木剛さんも、それこそ演じられた役柄と同じように不屈の精神でスタントマンにもCGにも頼ることなく演技をされました。
批判や罵倒は簡単です。
では、「貴方、命をかけて仕事されておりますか?」と白倉Pにお訊きしたいですね。
玩具を売ることしか頭にない人に・・・。
「仮面ライダー」にはふたりの親がおります。
原作者=生みの親である石ノ森章太郎先生は「仮面ライダー」を自然界から人類への反逆という怪奇性のあるドラマを。
育ての親のプロデューサーを務められた平山亨氏は「子どもたちの喜ぶもの」、「子どもたちの見本となるべきもの」というコンセプトで作られました。
自分は「ウルトラマン」もですが、「仮面ライダー」は今も昔も”お子さまランチ”でいいと思っております。
まず子どもさんという視聴者を最優先に製作されるべきだと思います。
しかし、本作はPG12指定。
Amazonプライムビデオにて配信中の本作と同じ生誕50周年記念作品「仮面ライダーBLACK SUN」はR18+指定(AVと同じレーベル)です。
白倉Pは財布のひもを握っている親御さんターゲットでしょうが、そんなものを作って天国の石ノ森章太郎先生や平山プロデューサーはどんな気持ちでいるのか考えたことあるのでしょうか?
さらに、これは岡田斗司夫氏のYouTubeを観て知ったのですが、パンフレットのインタビューで庵野秀明監督が「本作は自分が作りたい仮面ライダーでは無く、仮面ライダーというものへの恩返しの気持ちを込めて作った」とコメントされていたそうです。
・・・(汗)あの~ですね、映画監督が自分が作りたい映画を作らなくなってしまったら、それこそ山○貴や原田○人のようなしょーも無い職業監督になってしまいます。
以前スピルバーグが「観客が楽しむものを作ることを最優先」みたいな発言をして、映画ファンから「客に媚を売ってやがる」と批難されましたが、そのスピルバーグも使命感のようなものから作り出した『シンドラーのリスト』や『ペンタゴン・ペーパーズ~』と言った大傑作を生み出しております。
庵野監督、どうしちゃったのかな~?と思ってしまいました。
「仮面ライダーへの恩返し」と言って、本家ライダー俳優に激怒されては本末転倒です。
作品の裏側の批判はここまで。
ここからは本編の感想を書きたいと思います。
『シン・ゴジラ』が成功した理由として、東宝は庵野監督にお金を出す覚悟があったからだと思います。
ですが、映画ファン誰もが製作前の段階で不安に思っていたことなのですが、おそらく東映はこの作品にあまりお金を出さないだろうということです。
その嫌な予感は見事的中し、信じられないほどちゃちでショボいCGには「日曜日朝と変わらないレベル」と思ってしまいました。
ちょっと劇場用作品でこのレベルのCGはキツい。
怪人(劇中はオーグメントと名乗っておりました)の造形がすばらしいと岡田斗司夫氏は語られておりましたが、あまり”怪奇”とは思えませんでした。(1971年の「仮面ライダー」第1話のタイトルは「怪奇蜘蛛男」)
『シン・ウルトラマン』のメフィラス同様、敬語で話すところも「・・・またかよ」と思っちゃいました。
コウモリオーグのメイク(CG?)にはぼう然。
ギャグじゃ無いんだから。
笑い取ってどうするのよ。
サソリオーグを演じた長澤まさみさん。
もうヤケクソ気味の怪演でしたが、その演技は某ドラマのキャラそっくり。
ダー子オーグと言っていいほど。
しかも、ライダーとのバトル無しで、アンチショッカー同盟(アンチショッカー同盟はテレビ版ではショッカーライダー編、つまりゲルショッカーになってからの登場でしたが)に倒されてしまうという見せ場の無さ。
ハチオーグを演じた西野七瀬さん。
『孤狼の血 LEVEL2』のときは、それなりの演技だったように記憶しておりましたが、まあ、残念でした。
ですが、同じ乃木坂46の『嘘喰い』の白石美帆さんよりは良かったです。
そのハチオーグとライダーの日本刀でのバトルは『キル・ビル VOL.1』をモチーフにしたと後で知りました。
言われるまで分からなかった・・・。
カマキリ・カメレオン(K.K)オーグ。
2種類の生物の合体怪人はゲルショッカーからのはず・・・なのですが。
ほかにもショッカーライダーが登場したりと、初期の設定と後期のスタイルがごっちゃになっているところに多少違和感はありました。
気にするなと言われれば、気にするほどのものでもありませんが。
皆、言葉づかいが丁寧でした。
池松壮亮さんのセリフの棒ぶりの批判も多いですが、あえて感情を出さないようにしているのだとは思うのですが、それにしてもあまりに棒。
それに、一応本郷猛のIQはアインシュタインに匹敵するレベル・・・という設定なのですが、それほど頭脳明晰には観えず、終始ポカ~んとしたお顔だったのも気になりました。
柄本佑さん演じる一文字隼人。
こりゃ、佐々木剛さん怒るな~と思うキャラ変しちゃっておりました。
本郷も一文字もマスクを外しているとき、何かやたら泣くんですよね。
ヒーローが泣いてはいけないとは言いませんが、あまりメソメソされるとガッカリしてしまいます。
庵野監督の希望だったのか?
それともネタが無かったのか?
「仮面ライダー」とは関係の無い石ノ森章太郎先生作品の「イナズマン」、「ロボット刑事」が登場。
イナズマンことチョウオーグは自らを「仮面ライダー第0号」と名乗ります。
こりゃバンダイ帝国大喜びだな~。
作曲は岩崎琢氏が担当しているのですが、盛り上がりそうなところはオリジナルの菊池俊輔氏の曲が使われております。
この使われ方があまり上手とは思えませんでした。
なのでテンション上がりませんでした。
また細かいことですが、サイクロン号は緑川博士とSHOCKERが開発したものという設定でありながら、どういうワケか立花レーシングクラブのようなマークが・・・。
もちろんすべてが悪いワケではありません。
浜辺美波ちゃんの演技は本当にすばらしく、まったく華の無いライダー(←失礼!)を補って余りあるオーラを放っておりました。
彼女の出演しているシーンを観ている時間だけ、私のベルトの風車もフルスロットルで回転したおりました。
『キミスイ』、『賭ケグルイ』など、美波ちゃんは外さないですね。
ステキな女優さんです。💖~
・・・なのですが、彼女の兄、イナズマンことチョウオーグになるイチロー(このネーミングは「キカイダー01」から来ているのかな?)が本郷に「妹と寝たのか?」などと言う始末。
偉大なる平山プロデューサーの意思を受け継がなければならない庵野監督、こんなセリフ、子どもさんに聴かせられますか?
『シン・ウルトラマン』も無言でしたが、このライダーも技の名前を言わない、叫ばない。
「とぅ」とも言わない。
そのライダー1号と2号のドラゴンボールバトルがちゃち過ぎて草。
紅いマフラー、美波ちゃんに巻いてもらえば、皆ヒーロー!(笑)
秘密結社SHOCKERの目的もよく分からないものでしたし、本郷やルリ子の父親とのエピソード、最後に登場するライダー2+1号など、全然「さようなら」できていない庵野監督の『EVA』残像漂う設定やストーリーに、「私にはほかに何もないもの」という庵野監督の心の声が聞こえてきた気がいたしました。
これだけ安っぽいCGで描くのであれば、せめてバイクアクションか殺陣のどちらかは生身のものが観たかったです。
こんな低予算の映画で100億円稼ごうとした悪の(?)組織・東映とバンダイの野望はホンモノの仮面ライダー、一文字隼人の手によって葬られました。
本作より「仮面ノリダー」の方にライダー愛を感じてしまいました。