『ウエスト・サイド・ストーリー』
2021年製作/アメリカ映画/上映時間:157分/G/2022年2月11日日本公開
出演:アンセル・エルゴート
レイチェル・ゼグラー
アリアナ・デボース ほか
1961年に映画化もされたブロードウェイミュージカルを、スティーヴン・スピルバーグ監督が再映画化した作品です。
1950年代のアメリカ・ニューヨークを舞台に、移民系の二つのグループが抗争を繰り広げる中で芽生える恋が描かれます。
第94回(2022年)アカデミー賞では作品、監督賞ほか計7部門にノミネートされ、アニータ役を演じたアリアナ・デボースが助演女優賞を受賞。
あらすじ
1950年代のニューヨーク・マンハッタンのウエスト・サイド。貧困や差別による社会への不満を抱えた若者たちは同胞の仲間たちとグループを作り、それぞれに敵対し合っていた。ある日、ポーランド系移民の「ジェッツ」の元リーダーであるトニー(アンセル・エルゴート)と、対立するプエルトリコ系移民の「シャークス」のリーダーの妹マリア(レイチェル・ゼグラー)が出会い、一瞬で恋に落ちる。その禁断の恋は、多くの人々の運命を変えていく。
(シネマトゥデイより)
1961年にも映画化された名作ブロードウェイミュージカル『ウエスト・サイド物語』を巨匠・スティーヴン・スピルバーグ監督が再び映画化した作品です。
脚本と振付は、共にトニー賞受賞歴のあるトニー・クシュナーとジャスティン・ペックが担当。
主人公を『ベイビー・ドライバー』などのアンセル・エルゴート、ヒロインをオーディションで選出されたレイチェル・ゼグラーが演じるほか、1961年版でオスカーを受賞したリタ・モレノが出演(製作総指揮も担当)。
Disney+にて鑑賞。
初めての鑑賞になります。
アカデミー賞作品賞ノミネート。
スピルバーグの新作となると観ないワケにはいかないと思い、少し遅くなりましたが鑑賞いたしました。
・・・ちなみに、作品賞の対抗馬だった『ドライブ・マイ・カー』、スピルバーグはかなりのお気に入りだそうです。
(『ドライブ・マイ・カー』の記事で書いたかな?)
1950年代のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドには、夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていた。社会の分断の中で差別や貧困に直面した若者たちは同胞の仲間と集団をつくり、各グループは対立しあう。特にポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していた。
そんな中、ジェッツの元リーダーであるトニーは、シャークスのリーダーの妹マリアと運命的な恋に落ちる。ふたりの禁断の愛は、多くの人々の運命を変えていく・・・。
『1941』(1980年)のダンスシーン、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984年)のオープニングのシーンと観て、「スピルバーグはミュージカル映画が作りたいんだな~」と思っていたのですが、思ったより時間が経っての初ミュージカル映画作品です。
スピルバーグのリメイク作品は記憶違いで無ければ『オールウェイズ』、『宇宙戦争』に次いで3本目だと思います。
本作、作品の完成度は一貫して高評価なのですが、映画の背景などで批評家の間でもかなり評価が分かれております。
そちらの話しは後ほど。
まず、自分の感想を書きたいと思います。
実を言いますと、人生で初めて観たミュージカル映画が本作のオリジナル版、1961年の『ウエスト・サイド物語』でした。
小学校3~4年生くらいのとき、年末にTBSでオンエアがあり、父親がこの映画のファンで付き合って観たのが最初。
ダンスの迫力とすばらしい歌に子どもながら酔いしれ、ラストシーンでは(ネタバレになっちゃうかな?)「死んじゃったの?」と号泣し、両親に慰められた記憶があります。
映画は吹き替え版で、ヒロイン・マリアの声を大竹しのぶさんが演じておりました。
それ以降は、リバイバル上映、BS放送などで、数え切れないくらい鑑賞しております。
オリジナル版でアカデミー賞助演女優賞受賞したリタ・モレノが本作に出演していたのが、とても嬉しかったです。
そして、スピルバーグのリメイク作品の本作ですが、基本的なところはオリジナル版と同じでした。
物語の時代設定。
これは絶対変えちゃいけないレナード・バーンスタインの音楽。
最初の方で気になっていたのは”指パッチン”が少なくなってしまったところ。
今、指パッチンしていいハリウッドの俳優はジョシュ・ブローリンとロバート・ダウニーJrだけみたいですね。(違うと思います)
字幕ですが、オリジナル版は「ジェット団」、「シャーク団」となっていたのですが、本作は「ジェッツ」、「シャークス」となっておりました。
今、”団”と名乗っていいのは「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」(略してSOS団)だけみたいですね。(それも違うと思います。「涼宮ハルヒの憂鬱」それほど最近のアニメでもありませんし・・・)
1961年のオリジナル版では時代的に描けなかったレイプのシーン、トランスジェンダーの描写が逆に今の時代らしく、力強く描かれていたと思いました。
プエルトリコ系移民の「シャークス」とマリアたちのセリフのほとんどがスペイン語になっていたところはリアリティを追求したのだと思います。
ミュージカル・ナンバーはほとんど変更無く使われておりましたが、使われ方が違うのが多かったです。
「アメリカ」はオリジナル版は廃虚ビルの屋上でしたが、本作ではストリートの中心で。
超・名曲の「クール」はオリジナル版は決闘後。こちらは決闘前、しかもトニーが歌っておりました。
キャスティングは悪く無かったと思いました。
・・・ただ、「ジェッツ」のメンバーでもう少し印象に残るキャラクターが欲しかったかな?とは感じました。
なぜ、今『ウエスト・サイド・ストーリー』なのか?
トランプ政権の影響で1961年のオリジナル版の時代以上に移民の生活が厳しくなった現在という時代に、スピルバーグが「貧しくても、苦しくても、生きることの喜び」を綴ったこの名作を現代に甦らせたことの功績は大きいと思います。
シェイクスピアの戯曲「ロミオ&ジュリエット」を元にしたブロードウェイ・ミュージカルの映画化。
何年経っても美しいストーリー、名曲は人々の心に響くものだと感じさせられました。
・・・ただ、このような評論家の方の意見がありました。
「よそ者が作った映画」。
プエルトリコ系移民でもシェイクスピアの誕生したイギリス人でも無い、大金持ちのユダヤ人のスピルバーグが作ったのでは何の説得力も無いとの感想。
人種問題は私たち日本人の想像以上にアメリカでは根深く、口を挟むものでは無いかもしれません。
『ムーンライト』はもちろん黒人監督だから傑作になったのは間違いありませんが、本作は必ずしも「プエルトリコ系の監督で無ければならない」ということは無いように思います。
この評論家の方はアメリカ在住ですが、たしかにアメリカでは大金持ちのユダヤ人はひがまれる存在のようですが、それで映画を評価するのは違う気がいたします。
イスカリオテのマリア(イスカリオテはいらない。・・・嗚呼、冬月先生。合掌)を演じた女優さんは3万人のオーディションの中から選ばれたそうですが、とてもチャーミングでした。
歌もご本人が歌われたのだと思います。(オリジナル版は吹き替えだったので)
後半、重要なポジションを占めるチノの俳優さんは、マジメなサラリーマンにしか観えなかった。
オリジナル版と本作、どちらをオススメするかと訊かれたら「オリジナル版」と答えると思います。
本作は人種問題やジェンダーなどを全面に描いたため、少しお説教くさい仕上がりになっていたのは間違いありません。
ですが、スピルバーグの「今の時代に伝えなければならないこと」、そして「今の時代も語り継がなければならないこと」というメッセージが強烈に伝わり、オリジナル版同様、ラストシーンは涙が止まりませんでした。
「人は憎しみ合う者では無く、愛し合う生き物」。
スピルバーグに改めて教えられたように思います。
戦争、殺戮、そのようなものから生まれるのは悲劇だけです。
最後に余談ですが、オリジナル版でトニーを演じた俳優さんが、デヴィッド・リンチ製作のテレビドラマ「ツイン・ピークス」であまりに変わり果てた姿で登場したとき、ローラ・パーマーの殺害以上に悲しくて泣いてしまいました。(ウソつけ!)