『ケイコ 目を澄ませて』
2022年製作/日本映画/上映時間:99分/G/2022年12月16日日本公開
監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの
三浦友和 ほか
聴覚障害のある元プロボクサー・小笠原恵子さんの自伝を原案にした人間ドラマです。
第72回ベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門に選出。
2022年・第96回キネマ旬報日本映画ベストテンで第1位を獲得。
個人賞で主演女優賞(岸井ゆきの)、助演男優賞(三浦友和)を受賞しております。
・・・ちなみに余談ですが、助演女優賞は広末涼子さんです。(それ以上は触れません。でも、それ考えると引○はもったいないな~)
あらすじ
生まれつきの聴覚障害により両耳とも聞こえないケイコ(岸井ゆきの)は、下町の小さなボクシングジムで日々練習に励んでいた。彼女はプロボクサーとしてリングに立ち続けながらも、心中は不安や迷いだらけで、言葉にできない葛藤を募らせていた。「一度、お休みしたいです」とジムの会長(三浦友和)宛てにつづった手紙を渡せずにいたある日、彼女はジムが閉鎖されることを知る。
(シネマトゥデイより)
『きみの鳥はうたえる』の三宅唱監督が、『やがて海へと届く』の岸井ゆきのを主演に迎え、耳が聞こえないボクサーの実話をもとに描いた人間ドラマです。
元プロボクサー・小笠原恵子の自伝「負けないで!」を原案に、様々な感情の間で揺れ動きながらもひたむきに生きる主人公と、彼女に寄り添う人々の姿が描かれます。
Amazonプライムビデオにて鑑賞。
初めての鑑賞になります。
本日、6月26日は”格闘技の日”だそうです。(自分も今日知りました)
1976年(昭和51年)のこの日、「アントニオ猪木VS.モハメド・アリ 格闘技世界一決定戦」が行われたことが由来になっているそうです。
・・・で、格闘技を扱った作品として、昨年の日本映画賞総なめにした本作を選びました。
嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコは、生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえない。再開発が進む下町の一角にあ る小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。
母からは「いつまで続けるつも りなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。「一度、お休みしたいです」と書き留めた会長宛ての 手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出す・・・。
まず本作と関係ない話しから・・・。
ボクシングを題材にした映画は多いですが、一番有名な作品は『ロッキー』シリーズだと思います。
無名の俳優、シルヴェスター・スタローンを一躍スターダムへ押し上げた映画です。
ですが、近年のスタローンの発言を聞いていると、情けなくなってしまいます。
自ら書いたシナリオを映画会社へ売り込んだスタローン。
しかし、映画会社はシナリオの権利は欲しいが、主演は当時の人気俳優で撮りたいという考え。
ですが、自分主演で無いなら売らない姿勢を貫いたスタローン。
それを承諾し、映画をアカデミー賞作品賞受賞へ導いた名プロデューサーのアーウィン・ウィンクラーとロバート・チャートフ。
しかし、近年、スタローンが権利を取り戻そうと、駄々をこねているとの話題が・・・。
理由はスタローン不在の中、製作されている『クリード』シリーズに対しての不満だと思うのですが、スタローンはいつまで過去の栄光に囚われているのでしょうか?
SNSで権利を返さないプロデューサーをかなり下品な言葉で非難していたそうですが、日本の諺で、それを「恩を仇で返す」と言います。
『ロッキー』は優れたシナリオですが、こんな好条件で映画化にGOサイン出してくれたのは、この優秀なプロデューサーあってのもの。
しかも、申し訳ない言い方になりますが、スタローンに高い演技力があったワケでも無いのに・・・。
弁護士に相談したそうですが、あっさり断られたそうです。
理由は簡単。「あなた、高額のギャラ貰ったでしょ」(2作目以降ですが)。
しかも、一応完結編の予定だった『ロッキー5/最後のドラマ』では息子を出演される暴挙に走っております。(『ロッキー4/炎の友情』と『ロッキー5~』続けて観ると、突如息子が歳を取っているのが分かり、フィラデルフィアとモスクワの時差のとてつもない凄さを感じてしまいます)
大量のステロイド使用して出演した『ロッキー・ザ・ファイナル』は正直痛々しかった。
スタローンは脚本を書けるし、監督もできるので、アクション俳優として賞味期限切れても映画界で残っていける・・・と思っていたのですが、どうしても自分が主演じゃないと気が済まないみたいですね。
『ロッキー』の権利を取り戻せなかったので、今度は『クリフハンガー』2作目を作ると言い出したそうで、本当に情けなくなりました。
もう一度卵飲んで、頭冷やしなさい!
『ケイコ 目を澄ませて』の話しに戻ります。
昨年のキネマ旬報1位も納得の、近年の日本映画でもベストと思える映画でした。
ただ、分かりやすいテーマとは言えないところも多く、映画の作りのいろいろ複雑で万人向けでは無いと思いました。
本作は16mmのフィルムで撮影されております。
16mmフィルムは昭和のテレビドラマでしか商業用作品では使用されない(映画は当時35mm)もので、この映画はかなり画面がザラついております。
この令和に作られた映画と思えない画面の質感が、ハンディキャップを持つケイコや、苦しみを抱える人たちの姿を上手く捉えていたように感じました。
また、『ケイコ~』から話しが逸れてしまいますが、昭和のテレビドラマでも”空想特撮シリーズ”の「ウルトラQ」、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」は特撮シーンのクオリティのため、映画と同じ35mmで撮影されております。
その「ウルトラマン」を現代風アレンジした『シン・ウルトラマン』の実写パートは驚きのiPhoneで撮影されております。
今や映画のカメラは重い機材を運ぶ必要は無く、ポケットに入ってしまうんですね。
「伝わらない」、「(何を描きたかったのか)分からない」というこの手の日本映画お決まりの低評価レビューがyahoo!に寄せられていて、頭痛くなりました。
そういう方は卵でも・・・飲む必要はありませんが、Disneyの映画の吹き替え版(字幕版は絶対ダメ。分からないと思うから)や少女コミックス原作の映画を観る方がいいと思うのですが、なぜ、この映画を観ようと思ったのか逆に理由知りたくなります。
高評価のレビューを書かれている人も、(低評価の人のおつ○の悪さを)批判してました。
なぜ聴覚障害者のケイコがボクシングにのめり込んで行くのか?
これは、とてつもなく危険な行為と言えます。
耳が聞こえないと言うことは、ゴングも、セコンドの指示も、レフェリーの声も聞こえません。
ヘタをすれば命の危険があるかもしれないにも関わらず、ケイコはリングへ上がります。
ケイコは弟と暮らしていて、恋人はおりません。
ある日、弟との手話での対話で「勝手に人の心を読まないで」というシーンがあります。
これがかなり重要な感じがいたしました。
以前、テレビで障害を持つ方が、悪い言い方ですと「憐れむ」ような感じで見られ、気を遣われることを逆に嫌うと聞いたことがあります。
その音の無い世界しか知らないケイコ。
彼女と同じような空間のように、映画は一切音楽を使わず、セリフも少なめ。
当然ですが、主演の岸井ゆきのさんもセリフは一言のありません。
ケイコがボクシングミットを叩く音だけが映画で強烈な音響で描かれます。
おそらく、このミットを叩いているときだけ、ケイコはその振動で「音」というものを感じているのではないかと思いました。
三浦友和さんが最高の演技を披露しておりました。
荒川区にあるボクシングジムの会長役なのですが、味わいのある役柄で、映画に厚みを与えてくれております。
3カ月間のトレーニングをし、見事プロボクサーを演じた岸井ゆきのさん。
最高の名演です!
ケイコの持つ内に秘めた苛立ち。
それを吹き払うかのように彼女は日々ミットを叩き続けます。
『コーダ あいのうた』は聴覚障害者の家族を持った健常者を描いた映画でしたが、その真逆として観ると分かりやすいのではと思いました。
聴覚障害者から見て、健常者の世界はどのように映るのか?
それを描いた作品のように感じました。
感動の押し売り映画『いのちの停車場』(でも、感動しませんでした)と同じ朝日新聞が携わっておりますが、本作はそのような押し売りはしておりません。
地味ながら、しっかりとした人間ドラマで、ストレートよりボディブローのような感じの映画です。